『愛の不時着』になぜ惹かれるのか
遅ればせながら『愛の不時着』を観ました。
挿入歌のピアノ曲を探して聴き、完全に『愛の不時着』ロス状態です(笑)。
なぜこんなに惹かれるのか、と自分なりに考えてみました。
主人公のユン・セリは、ソウルで大成功していて何不自由ない生活をしていますが、心はどこか満たされない女性です。
そんな彼女が、パラグライダー事故で、北朝鮮に不時着するところから物語は始まります。
白雪姫と7人の小人のような村人たち
このドラマで、印象に残っているのは、北朝鮮の、貧しいけれど温かさのある村人や軍人たちとの交流でした。特に村人たちとの交流の際に流れるテーマ曲を聞くと今でも嬉しくなるほどです。
韓国の個性派俳優たちが、楽しげに演じる北朝鮮の村人たち。
不時着したセリを助けたのは、イケメン隊長と、個性豊かな四人の隊員たちです。
彼らとのコミカルで心温まるやりとり、そして村の、おせっかいだけれど親切な女性たちが、北朝鮮で何もできない主人公を助けてくれるのです。
それはまるで、白雪姫が森で7人の小人たちに助けられているような物語だったのです。

異世界で持ち物を全て手放す 〜イナンナの冥界下り〜
ソウルでお金も名誉も社会的地位も、物質的な豊かさも全てを持っていたセリですが、北朝鮮では、そのどれもが意味を持ちません。お金をかけた髪型は、北ではボサボサ髪と言われるし、繊細な細工の限定エディションの指輪も、北朝鮮の質屋では、重さが軽いからと言って、破格の値段にしかなりません。
これは古代メソポタミア神話の「イナンナの冥界下り」と重なるのです。
女神イナンナは、冥界へ降るたびに、7つの門を通過しながら、権力・装飾・地位など、自分の大切なものを一つずつ手放していきます。そして裸の状態で冥界の女王の前に立ち、死を迎えますが、最終的には再生されて、以前よりも深い力と知恵を得て地上に戻ってきます。
セリも、北朝鮮という異世界で「何も持たない自分」と向き合い、本質に立ち返る旅をしていたのかもしれません。

本当の自分を取り戻す
実際、高飛車だったセリは、村人たちの温かさに触れ、心から笑い、食事を楽しみ、人と共にいる時間を楽しみ始めます。
そして本当の愛を見つけます。
元の世界に戻ろうとする頃、彼女はすでに「別人」になり始めていました。
この物語は、孤独な女性が、心を取り戻す旅であり、古典的な変容物語そのものです。
古典的な変容物語では、まず、今まで持っていたものを手放さなければなりません。そして、新しい自分と出会う必要があります。
白雪姫の小人たちが、主人公の7つの性格、要素を表しているように、村人との純粋な交流は、これまで忘れていた自分の一部を思い出すことを意味しています。
帰還と、新しい日常
異世界で何かを取り戻して、帰還した主人公は、今までと同じようで全く違う日常を生き始めます。
周りのみんなと楽しくランチを食べたり、思いやりを素直に表現できるようになっています。
そのことを大事に思える自分に変わったからです。
そして、そんなごくごく小さな日常の心持ちの変化が、真の変容プロセスの証です。
“すごい”自分に変わるものではなく、なんでもない普通の自分を心から楽しめる自分に変わることなのです。
人生の転機は、旅の始まり
私たちの人生でも、『愛の不時着』のような変容の旅の機会が訪れます。
怪我や病気、子どもの独立、新天地への引越しや転職など・・・
これまでの生き方が意味をなさなくなる時が、旅の始まりです。
中年の危機、なども典型的な変容の旅の入り口です。
本当の自分を取り戻す旅は、実際には、1ヶ月の旅行で終わるようなことではありません。
何年もかけて、日常を営みながら続いていくものです。
私自身も、この旅を経験してきました。
ヒーリング、アルケミー、シャーマニズム、夢との取り組みなどの学びが、その過程で私の旅を導いてくれました。
やがて日常生活に色味が戻り始め、「ああ、私は本当に、自分自身を生き始めたんだ」という実感が訪れます。
自分に響く物語
私たちは、いまの自分に響く物語に、自然と惹かれるものです。
『愛の不時着』が深く響いたのは、私自身が、長い旅の果てに本当の自分を取り戻しつつあるからかもしれません。
ヒーローとの恋もまた、魅力でしたが、、、(笑)。
でも、何よりも、強く心を打ったのは、主人公が「本当の自分を取り戻す物語」だったということでした。
補足:7という数字の意味
イナンナは、通った門は7つ、白雪姫を助けた小人たちも7人。
7は世界の完成、調和、統合の象徴する数字です。
人間のチャクラも7つあり、それぞれの心理的発達段階を経験し、成長していきます。その道を通ることで、人間としての全体性を取り戻していくのです。
7つのチャクラは、イナンナが7つの門を通過していったように、私たちの旅路を導き、人間としての成長の道筋を照らしてくれます。
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